この症状、何が原因?
頭痛や手足のしびれなどで、「病院に行っていいの?」「何科を受診すればいいの?」と悩まれたり、脳神経外科の受診を検討されている方などの参考になるように本ページでは、日常生活で皆さんがよく経験する5つの症状について、その発症のメカニズムや各症状に対する脳神経外科での診療内容をご説明しています。
頭痛
誰にでも起こる症状。ときには病から来ることも
一生のうちで頭痛を経験したことがない方はいないほど、頭痛は誰にでも起こるありふれた症状です。しかし一般的に、頭痛が生命に危険を及ぼす病気と結びつく可能性は高くありません。それにも関わらず頭痛が起こると心配になるのは、真っ先に「くも膜下出血」「脳腫瘍」といった、恐ろしいと思われている病気が頭の中を駆け巡ったり、痛みのコントロールをどのようにしたら良いか分からなくなるからです。
診断のポイント
頭痛の原因となる病気を理解するには、先ずは「いつから、どのように、どの部位の頭痛が起こり、どのような状態になったか」といった病気の経過(現病歴)を注意深く聞き(問診)、神経症状(異常な症状)を取り、今かかっている、または過去にかかったことがある病気の情報を得ます。その上で原因となる病気の可能性を考え、それに対する適切な検査(MRI,CTなど)を行います。
頭痛の主な種類と原因
頭痛には、命に直接関わらない一次性頭痛の緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛と、三次性頭痛に分類される三叉神経痛や後頭神経痛、及び命に直接関わる可能性のある二次性頭痛のくも膜下出血、脳腫瘍、髄膜炎、脳膿瘍、慢性硬膜下血腫などがあります。
一次性頭痛は意識が悪くなることはなく、片頭痛の前兆症状である、閃輝暗点(目の前が見えにくくなる)嘔気・嘔吐、めまいや群発頭痛に伴うことがある自律神経症状(流涙、鼻漏など)など、頭痛以外にも神経症状が起こる事もありますが、症状の主体はやはり頭痛となります。頭痛の原因が一次性のものであると分かれば、投薬、生活改善などにより痛みを抑えるようにします。
二次性頭痛は一般的に頭蓋内圧上昇(頭の中の圧が高くなる)によって意識が悪くなる可能性が高く、頭痛の症状以外にも病気によっては一方の手足の麻痺、しびれや失語(言葉が喋れない、理解できない)などの異常な症状を伴う可能性が高くなります。二次性のものであれば直ちに入院が必要となることが多く、手術などの治療成績により頭痛などの症状が軽減・改善することが一般的です。
三次性頭痛は直接生命に危険を及ぼすことはありませんが、後頭神経痛を訴えて外来を受診される患者さんは非常に多く、特に頭皮の後部にズキンとした痛みなどが頻回に繰り返して起こります。髪の毛などを触るとぴりぴりするような感覚も出現することがあり、頭頸部の大後頭神経の出口部を押すと痛みが起こります。頚髄神経と三叉神経が連結しており後頭部から前頭部にまで痛みが広がる場合もあります。神経障害性疼痛緩和薬が効果的です。
手足の麻痺
体を動かす脳の指令がきちんと伝わらない状態
「手が上がらなくなった」、「持っている物を落とす」、「力が入らない」、「歩けない」などの表現が(運動)麻痺を表しています。
手足を動かす経路は、大脳(前頭葉)の皮質(表面)にある運動神経細胞から始まり、脳幹部を経て反対側の脊髄に達します。その経路のどこかが障害された場合に麻痺が起こるのです。そのため一般に大脳、脳幹部で障害が起こると、障害が起こった反対側で麻痺が起こり、脊髄で障害が起こると、障害が起こった同側で麻痺が起こります。
手足の麻痺の主な原因、診断のポイント
麻痺が起こる代表的な脳の病気は、皆さんよくご存知の脳血管障害の一つである脳梗塞(血管が詰まり脳細胞が死滅した病気)や脳内出血(血管が破綻し脳実質に出血する病気)です。くも膜下出血は脳の表面の出血ですので、頭痛以外に一般的には麻痺は起こしません。脳腫瘍、慢性硬膜下血腫なども麻痺を起こす原因となりますが、脳血管障害と異なって徐々に麻痺が起こってくる傾向があります。問診、神経症状、既往歴(高血圧、糖尿病、脂質代謝異常、不整脈などの心疾患)などの情報を取ることにより、ある程度原因となる脳神経外科的な病気を推測し、CT,MRIなどの検査を行い診断し、病気に応じて治療が必要となります。
脳の病気では両手足に一度に麻痺が起こる事はありませんが、脊髄(頸髄、胸髄)に異常が起こった場合、病気によっては両手足に一度に麻痺が起こる可能性があります。麻痺が起こる脊髄の病気は変形性頚椎症(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄)、脊髄腫瘍、後縦靭帯骨化症(OPLL)などがあります。それらの病気も問診、神経症状、検査(MRI,CT,レントゲン)などで診断していきます。
脊髄から出て手足を動かす末梢神経に障害を起こした場合、その原因が神経の圧迫による橈骨神経麻痺、手根管症候群(正中神経麻痺)、肘部菅症候群(尺骨神経麻痺)などでは(絞扼性疾患)単一の筋肉が障害されます。糖尿病、ギラン・バレー、多発性硬化症などの内科的な病気が原因である場合は、左右四肢の遠位(末端)に障害が起こり、しびれなどの感覚異常、感覚鈍麻などを伴うことがほとんどです。これらの病気は問診、神経所見を取ることがとても重要になります。絞扼性疾患は症状がひどくなると手術が必要となる場合があり、内科的な病気が原因であれば、内科的治療で経過を見ていきます。
手足、体の感覚異常
手足からの感覚情報が脳に届かない状態
体の感覚異常には感覚鈍麻・鈍麻、異常感覚などが含まれます。患者さんは「ビリビリ痺れる」、「触ってもわからない」、「嫌な痛みがある」などの表現で訴えられます。手足を動かす神経経路があるのと同じく、体に感じた感覚(触覚、痛覚、温痛覚、深部覚)を手足の末梢神経から対側の脊髄を通って大脳に伝える経路があるため、その経路が障害されると感覚異常を引き起こします。
感覚異常の主な原因、診断のポイント
体のどの部分に感覚異常が起こっているか、どのように、いつ起こったかなどの問診を取る事は原因となる病気を診断する上で非常に大切です。運動麻痺と同様に急激な発症は、脳血管障害(脳梗塞、脳内出血など)の病気が原因となることが多く、手足と体部の半身のみに感覚異常が起こります。頭部MRI,CTなどを用いて速やかに診断を行い、症状に応じて直ちに内科的及び外科的治療を開始する必要があります。
脳腫瘍、慢性硬膜下血腫なども原因となりえます。両側で体部のあるレベル以下に障害が起こる場合は、外傷、頚椎症(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄など)、後縦靭帯骨化症、腫瘍、梗塞などが原因で広範に脊髄が傷ついた時に起こります。MRI,CTなどで正確に障害の起こった脊髄のレベルを確認し治療を行います。片側または両側の手足の神経の領域に沿った感覚異常は、椎間板ヘルニアなど脊髄から出た末梢神経の障害が原因となることが多いです。
神経障害性疼痛緩和薬やビタミン剤などの内服で経過観察しますが、時には手術が必要になる場合があります。
運動障害の原因にもなる、糖尿病、ギラン・バレーなどの内科の病気でも末梢神経障害による感覚異常を起こします。内科的治療が必要です。
めまい
「自分は今、どこにいるのか」目や耳と脳の意見が一致しない状態
「めまい」という症状は少し難しく言うと”脳の中での空間認識(自分がどこにいるかを理解すること)が障害される”ことです。空間認識を司る仕組みは3つの情報の相互作用によっておりますが、それらは内耳(耳の中にある構造物)、皮膚・筋肉・関節および目からの情報です。
体の位置情報は、耳の中にある内耳神経から脳幹部にある前庭神経核に伝えられ、四肢(手足)の位置の情報は脊髄、小脳から大脳に伝えられます。さらに周囲の環境の状態(情報)は目から入って大脳に伝えられます。そのため耳、脳幹及び大脳の連絡経路のどこかが障害された時に体の位置情報が一致しないためにいわゆる「めまい」と言われる症状が起こります。
めまいの主な種類
めまいという症状は「ふらつく」、「気持ちが悪い」、「目がまわる」、「ふわふわする」などさまざまな表現で訴えられます。最終的に「めまい」が主訴(患者さん本人の訴え)となれば、その原因が1)(ぐるぐるまわる様な)回転性、2)(気が遠くなる様な)失神性、3)(ふわふわしたり、なんとなくふらつくような)浮動性などに分けて考えます。
診断のポイント
問診を取り、めまい以外に神経症状がないかを確認します。脳血管障害(脳梗塞、脳出血)の原因となる年齢、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常、喫煙、多量の飲酒など危険因子の有無、めまい以外の耳鳴り、聴力低下、めまいが起こる体位(頭位変換、頸部のひねりなど)などの情報を得て原因を考えていきます。
1)回転性めまいは良性発作性頭位めまい(BPPV)、メニエル病、前庭神経炎など、耳鼻科的な病気が原因となることがほとんどですが、10%ほどは脳神経外科的な病気が原因となります。
高齢者、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常、喫煙など危険因子がある方は、脳神経外科的な病気の可能性も高くなります。めまい以外の症状も伴っていることも多く、血圧はかなり高くなっていることが多いです。原因となる病気は小脳出血・梗塞、椎骨動脈解離(血管が裂ける)によって起こるくも膜下出血、小脳及び脳幹梗塞など緊急性が高く、必ずCT,MRIの検査を行い、原因を確認し直ちに治療を開始します。治療が遅れると致命的にさえなります。
比較的若い方でも椎骨動脈解離が原因のめまいは決して少なくなく、突然どちらか一方の頸部の激烈な痛みが出現します。
2)失神性のめまいの原因は脳血流の低下です。不整脈や心筋梗塞によって心拍出量(心臓から血液が出る量)が低下したため脳血流が低下したり、ストレスによって自律神経反射が起こったり、頸部をひねり頸動脈洞症候群によっても脳血流の低下が起こり、そのため、めまいが起こります。
3)浮動性めまいは「歩くとふらつく」「乗り物酔いした感じがする」といった表現をする方もおられますが、他にはっきりした症状がない場合は、一般的には致命的な病気が原因となる事は少なく、肩こりや脳梗塞既往、頚椎症、薬剤性、心因性なども原因となります。
意識消失
さまざまな原因から起こる、ごく短時間の気絶
一時的に気を失ってしまうことです。
意識消失の原因はさまざまですが、本人は何が起こったかは覚えていないため、その原因を見つけるためには、周囲の目撃した人からその時の状態を詳しく聞く問診が非常に役に立ちます。例えばいつ、どこで、どのような状態で意識を失ったか、意識消失は何分続いたか、手足の動きはどのようであったか、顔色、呼吸の状態はどうだったかなどです。
原因となる主な病気は
1)てんかん 2)起立調節障害 3)迷走神経反射 4)低血糖 5)不整脈
などが考えられます。心電図、脳波、頭部MRI・MRA、場合によってはホルター心電図、寝た状態から立ち上がった時の血圧の差を測定して原因を探していきます。
意識消失の主な原因、診断のポイント
脳神経外科に関係のある意識消失を起こす大切な病気の一つに一過性虚血性発作があります。一時的に脳の血管の中の、血液の流れが途絶えることによって脳の機能が一時的に障害されることです。手足を動かす脳の領域の障害が起こると「麻痺」が起こり、感覚を司る領域では「しびれ」が起こり、脳幹部や広範な大脳領域の障害が起こると「意識障害」が起こります。血液の流れが再開すると症状が元に戻りますが、そうでない場合は脳梗塞となり症状がそれ以後持続します。
一過性虚血性発作は、一般的には数時間以内に症状は改善しますが、その後脳梗塞が起こる可能性があるためこの様な症状が起こった場合は原因を確かめ再発防止のための加療を直ちに開始する必要があります。
次に鑑別しないといけない病気はてんかんです。脳が原因でけいれんを起こすことをてんかんと言います。最近は高齢者のてんかんが特に問題になっています。若い人と違い、四肢を硬直させてけいれんする事とは異なり、意識を失ったり、夢遊病者のように訳が分からず、無意識に行動してしまって、本人は自分のやったことを全く覚えていないようなエピソードが起こります。
脳卒中、頭部外傷などが原因となる事も多いのですが、高齢者の場合は原因が不明なことも多いです。てんかんのために交通事故など社会的な問題も引き起こしており、日常生活にも支障をきたすため、抗けいれん剤を内服する必要があります。
若い人によく見られる起立性調節障害は、朝がしんどくて起きづらい、満員電車で長時間立っている時にばたっと倒れるといった特徴があります。規則正しい生活、食生活を心がけて適度に運動して下半身を鍛えて予防します。
アルコールを飲んだり、排尿排便をした後に意識を失って倒れた場合は、迷走神経反射による失神が考えらえます。
糖尿病でインスリンや経口血糖降下剤を使用中の方では、低血糖による意識を失うことがあります。糖分をとれば速やかに意識が戻りますが、対処が遅れると生命に危険が及びます。
不整脈など心臓の病気は心臓から出て行く血液量が下がり、十分な血液が脳に行き届かなくなり意識を失います。原因となる心臓の病気の治療が必須です。